インディオとの約束

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サンパウロの町の始まりの地であり、グァラニー族が初めて奪われた土地でもあるコレジオ・アンシェッタ

元大統領エンリッキ・カルドーゾが、在籍中に居住地をインディオ(先住民)の土地として認めるという約束をサン・パウロのグウァラニー族と交わしたにもかかわらず、10数年たった今でも未だにこの約束は守られていない。そればかりか、PLP227やPEC215と言った、先住民から居住地の権利を奪う法案が出された。

グウァラニーYvyrupa委員会(=CGY:先住民の居住地の権利を守るために、ブラジル南部と南東部のグゥアラニー族のリーダーによって設立された委員会)は法務大臣エドアルド・カルドーゾに居住地を先住民の土地として認める書類にサインをすることを要求するとともにこれらの法案の反対運動を行っている。4月23、24日、サンパウロ市に、3つの村からグウァラニー族が集結し、抗議運動が行われた。、

 

セントロを歩いていると、何かに導かれるようにコレジオ・アンシェッタふらりと足が向いた。いつも、足の向くまま、気の向くままに写真を撮りながら、ぶらぶらとセントロを歩いているので、別に珍しい事でもなく気に留めるほどのことでも無かった。コレジオ・アンシェッタは、サン・パウロの町の始まりの場所とされ、今でも、イエズス会の宣教師がインディオを教化するために造った学校と教会がある(現在ある建物は何度か建て直されたモノ)。建物前の広場で、横断幕を張り50人近い人々が、デモを行っていた。最近のサン・パウロは、毎日のようにあちらこちらで大小のデモが行われているので、ちっとも珍しい光景ではない。そのまま通り過ぎようとしたその時、突然、群衆の中から奇声があがった。50mほど先の群衆を見ると、弓矢のようなものを持った男達が輪を作って踊りを始めた。近寄ってみると、顔や体にペインティングを施したインディオらしき小柄な男性たちであった。

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今回の抗議デモについて説明するグゥアラニーYvyrupa委員会(CGY)の代表

写真を何枚か撮り、横断幕を見ると黒の布地に白文字で大きく「グウァラニーの我慢は限界だ!」と書かれてある。いったい、どういう意味なのだろう? まじまじと横断幕を見ている僕を見て、デモ関係者らしい白人女性が「今、中で説明会をしているから、良かったら来ませんか?」と誘ってくれた。コレジオの中庭では、顔にペインティングをし、羽飾りの冠を付けた男性2人と清楚な顔立ちの女性、3人が、テレビや雑誌社などのマスコミの人間を前にして、この抗議運動の説明をしている最中であった。

ブラジルのインディオ(先住民)と言えば、まずアマゾンに住むインディオをイメージするのではないだろうか。僕自身もインディオと言えば、アマゾンの密林に住む人々のイメージが強かった。しかし、もちろん、ブラジル先住民の彼らはブラジル各地に住んでいるわけで、サン・パウロ州にもたくさんのインディオが住んでいる。

2010年のIBGE(国勢調査のようなもの)によるとインディオの人口は896.917人、ブラジル総人口の0,47%を占める。サン・パウロ州には37.915人のインディオが住んでいる。(ちなみに最も多いのはアマゾン地方でインディオの全人口の20.5%)。今回、抗議デモを行ったのは、グウァラニーYvyrupa委員会(CGY)に属する、サン・パウロ近郊にある、3つの村の先住民たちであった。
サン・パウロ市にはグウァラニー族以外にも旱魃などにより、自分達の土地を捨て東北伯ペルナンブッコ州から移住してきたパンカロル族のような人々もいる。彼らは自分達の土地を持たず、ファベーラ(スラム街)や借家に住んでいる人々がほとんどである。村に住んでいたグウァラニー族の中にも雇用不足、劣悪な生活条件、暴力、健康管理の欠如が原因で、多くの人々がよりよい生活を求めて村から出て住んでいる。

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今回の抗議運動に集まった先住民が気炎を上げる

「大農場や、鉱物企業などの圧力により、我々先住民の居住地の権利を奪おうとするPEC215などの法案が議会にだされました。先祖代々伝わってきた我々の土地、我々の文化、生活を守り、子孫たちに伝えていくためにもこれらの法案の通過を許すわけにはいきません。そのためにも、現法務大臣エドアルド・カルドーゾに、我々の土地を認めるサインをすることを要求しています。ここ(コレジオ・アンシェッタ)はサン・パウロの始まりの地でありますが、我々の土地が最初に奪われた地でもあります。そういった意味においてもこの場所で抗議運動を行う意味は大きいのです」
3人のグウァラニーYvyrupa委員会の代表者が、話した趣旨はだいたいこんな内容だった。
再び、広場に戻って、髪を染めた若者に写真を撮らしてもらい、この抗議運動について聞いてみた。「その辺の詳しいことは僕には言えないから長老にきいてよ」と言って長老のエリアス氏を紹介してくれた。いかにも落ち着いた感じのする氏は一言一言噛みしめるようにゆっくりと話し始めた。

「カルドーゾ元大統領は、私たちの居住地を、法的にも私たちの所有と認めてくれると約束してくれたんだけどね、未だにその約束は果たされてないんだ。私たちは祖先が代々住んできた居住地を我々の所有として認めてもらい、子孫に伝えていきたいんだ。安心して暮らしたいのだよ。

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カンシボ(パイプ)での喫煙はグウァラニー族の伝統文化。7歳から吸い始める

この土地は26ヘクタールで決して広いもじゃない。それでも、畑を耕し、芋や果物を植え、木彫りの人形などを民芸品を作ってなんとか生計をたててきた。村々に住む私たちインディオの人口は1000人を越えたけど、その一方で、当時、大統領と約束を交わした長老たちはどんどん亡くなっているんだ。今、カルドーゾ元大統領の約束通り、この土地が私たちのものだと言う書類にサインをして認めてもらいたいんだよ」
デモ抗議に集まった先住民を見ていると、髪を染めた若者や、どう見ても普通に町でみかけるブラジル人にしか見えないような若者も多い。さらにエリアス氏にインディオとブラジル人の婚姻について聞いてみた。
「確かに、ブラジル人と結婚する若者が増えてきたね。ブラジル人との婚姻は我々の部族では禁じてはいないよ。でも、結婚して村の中で暮らすことは禁じられている。もちろん村の近所で暮らすのは彼らの自由だし、勝手さ」
日系コロニアも先住民同様で、ブラジル人との婚姻が進んでいるのが現状である。今のブラジル社会で、単族民族の血筋を維持していくのは無理なのである。

長老のそばにいた女の子が、カシンボ(パイプ)でタバコを吸い始めた。ピシュピッシュとしきりにツバを吐いている。聞くと、その女の子は7歳の頃からカシンボ(パイプ)でタバコを吸っているらしい。周囲を見ると、大人の女性や男性も回し吸いをしている。10数年前にサンパウロ近郊のインディオ部落を訪問したときにも女性がタバコを吸っているのを見て、驚いたものだ。パイプでタバコを吸うのは、インディオ独特の習慣なのだ。インディオの体型、容姿が変われども、風俗風習はしっかりと引き継がれているのを見て、妙に嬉しかった。

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パウリスタ大通りで行われたデモ行進

最近は、インディオの代議士や、シコ・メンデス氏により創られた組織「Aliança dos Povos da Floresta」に属する、世界的に有名なシャヴァンテ族の市民運動家アイルトン・クレナック氏など、政治家や運動家もじょじょに出始めている。その一方で、外貨を稼ぐために、サン・パウロのセントロの路上で布を広げてほそぼそと民芸品を売る人たちもいる。ほとんどの人々は、学歴も、技術もないので、実際問題として職を得るのが難しいのだ。

インターネットをはじめ科学・技術の革新が進む中、世界は激しく変わり、中国資本や世界の大企業資本が先を競って資源開発や、農地開拓を行い世界各地の自然がどんどん失われている。自然の中で暮らす先住民の伝統的な暮らしを子孫に伝えていくには、土地は必要不可欠なものである。世界の大きな流れの中で自然と共存してきた先住民独自の伝統・風俗・風習を守り伝え、生活を続けていくことは非常に難しい。

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「我々の戦いには終わりはない」と書かれたメッセージを掲げた少年

彼らは自然とともに生きる人々なのである。自然がなくなれば、彼ら民族は、ブラジル人の中に溶け込み、あっという間に消滅してしまうだろう。それは ブラジルの先住民のみだけでなく、エスキモーや、北米インディオ、アイヌなど自然の中で伝統的に生きる世界の少数民族にも同様なことがいえると思う。利益のみを追求する大資本の企業や、私腹を肥やすことに血眼になっている政治家や資本家の巨大な勢力に対抗するには、彼らの力はあまりにも弱すぎる。たとえば、先住民の生活をユネスコの無形文化遺産に登録し、世界が彼らをアシストいけば、簡単には先住民の土地には手が出せないだろう。和食やキムチは、そう簡単には廃れることはないだろうが、ブラジルの先住民をはじめ世界の少数民族文化は、自然がなくなればに簡単に消滅してしまうだろう。早急に手を打たなければならない問題である。

動画http://youtu.be/KanOkIbu3Y0

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