ブラジルダックス奮闘記・完成版Ⅱ

 

 

アズミ再び妊娠?

仕事で旅行に行くことになり、サクラが生まれて別々に飼っていたニンジャとアズミを一緒にすることにした。サクラが生まれてまだ1年もたっていないので、再びアズミが妊娠するとは夢にも思っていなかった。

ちょっと息子と彼女が目を離していた隙に交尾してしまったようで、また、アズミのお腹が大きくなってきた。まさか妊娠するとは・・・。できてしまったものは仕方がないので、これを最後にお産させることにした。

アズミのお腹は風船のように膨らみ、歩くのも億劫そうである。今回は、数匹生まれそうな感じである。サクラをニンジャと家で飼って、あずみを事務所の方で飼うことにした。1匹で飼っていると煩かったニンジャもサクラが一緒に住むことになって大人しくなった。

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交尾をしそうな兆候はあったが・・・。犬が1年2度もお産するとは知らなかった。

 

 

 2度目のお産

 夕方の6時ごろから、あずみがクウクウと鳴きだした。近くに行くとお腹を見せて摩ってくれのポーズをとる。いつもと少々様子が違うので念入りに摩ってやった。見ると、足が痙攣し、目がうるんでいる。うんこ場を見ると、下痢状のうんこをしている。これはお産が近い! と思い、すぐ家に連絡すると、彼女と息子が駆けつけてきた。最近、彼女との仲がうまくいっていなかったので、本当は僕一人でお産させるつもりであったが、あずみの様子を見ているとひとりでは心配になってきたのだ。へそのうを切って・・・なんてことを考えると、とても経験のない僕には自信がない。

 彼女は事務所にやってくると手助けの仕方を僕に説明し始めた。自分もお産の経験をし、サクラが生まれた時も手助けしているのでさすがに説得力がある。結局、事務所は狭いので家でお産をさせることになった。

 家にいる、サクラとニンジャを事務所に、アズミを家に運ぶ。アズミは新しい場所に落ち着かないのか、部屋を嗅ぎまわる。ダンボールの中に布をしいてやると、その中に入って横たわった。サクラとニンジャも、何かあったのだな、と察したのかなんとなく神妙である。 「こうやってお腹をさすってやるのよ」彼女はお産婆さんさながらに「アズミ、バイ(ほら、あずみ、がんばって)」とやさしく声をかけながら、小犬が出産しやすいようにお腹を押している。彼女の堂のいった対応に感心しながらも、僕が調べたサイトには摩ってやるなんてことは書いていなかったので、こんなやり方で大丈夫なのか? と少々疑問を持ちながら見ていた。そんな僕の様子に気付いたのか、「知り合いの獣医が教えてくれたのよ。ほら、あなたもやってみて」お腹を押してもアズミは嫌がりもせず、いたって従順である。目は更にうるみ、足の痙攣も続いている。 

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息子の出産、サクラの出産を経験しているだけに彼女は僕なんかよりずっと落ち着いている

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手助けをしなくてもアズミは膜を破り、へそうのも自分で噛み切った。本能とは凄いものだ

 

 

    陣痛は始まっているようだが、なかなか出てこない。1時間後やっと破水したようでしきりに舐めている。お腹をさすっていると、お尻の部分が盛り上がってきた。何回か盛りあがるが、それでもなかなか出てこない。待ちくたびれてテレビに気を取られているうちに、ふと見ると緑がかった透明の膜に覆われた小犬が出掛かっていた。ぽろりと出そうで出ない。彼女が手助けをしてやっとで出産。サイトにはすぐ取り上げて、膜を破ってへそのうを切ってやるとあったが、彼女の「アズミは全部ひとりでできるわ」という言葉を信じて見ることにした。アズミは膜を噛み破り、心配していたへそのうも自分噛み切ってくれた。誰にも教えられていないのに、一連の行動ができるなんて不思議でたまらない。本能とは凄いものである。 

 へそのうも、羊膜も、アズミはすべて食べてしまった。「息をしていなかったら、小犬を振ってやって」というサイトの注意を頭に思い浮かべていたが、その心配もなかった。「自然て凄いわね。エドアルド」息子に彼女がいうと、息子も興奮した面持ちで、アズミの作業をじっとみている。やはり、知識だけでは何もならない。彼女は、お産の知識を詰め込んでいた僕より的確に行動し、アズミのお産の手助けをしていた。女の強さと、経験者の強さを思い知った。  

 そして2匹目。全然出そうにない。お腹をさすった感じでは、もう1,2匹いそうである。1匹目を産んで、アズミも気が立っているのか、さわろうとすると僕にも唸る。やさしく名前を呼びながらやっと触ることができた。 「獣医に電話してみたら」と彼女。 ここはブラジル、休みの日に獣医が来る訳ない。人間のお産でも自分の都合に合わせて平気で予定を早めて帝王切開をするような医者ばかりなのに、犬のお産を心配して来る訳がない。そんなことは当然知っているだろうブラジル人の彼女が言うのがおかしかった。  

 お腹をさすっているうちに、再び陣痛が来た。何度か繰り返し、やっと出産。アズミは、再び1匹目と同じ行動を繰り返すが、どうも今回は舐め方も膜の破り方も雑なような感じがする。疲れてきたのだろうか。  

 犬のお産に、息子も神経質になっていたようで、夕食を食べていなかった。第2子が生まれてやっと落ち着き、簡単な夕食をとった。 「僕は黒い犬が欲しいんだけど生まれないね」  

 小犬が生まれたら1匹は残す約束をしている。夕飯を食べ終わると、日記を書くんだ、と言ってノートを取り出して書き始めたのには少し驚いた。本を読むのも嫌いだった息子が、日記を書くなんて・・・。少しでも、文字に慣れるように、「ナルト」のポ訳の漫画を値段が結構高いにもかかわらず買い続けた甲斐があった。  

 明日が早い彼女と息子は寝ることになり、僕一人でついてやることになった。僕の予想ではもう1匹いそうな感じである。それから20分もしない間に、こんどはするりと小犬がでてきた。真っ黒である。生まれてきた子犬はすべてオスであった。  

 一連の行動を終え、アズミもやっと一息ついたような顔をしている。しかし、お腹の中にまだ残っているのかどうかは僕には判断がつかない。「肉のスープなどをあげて食べなかったら、まだ残っているし、食べたらお産は終わり」というサイトの一文を思い出した。肉がなかったので卵を茹でてあげると、喜んで食べた。多分、これで終わりだろう。小犬が押しつぶされたりしないか、少々心配ではあったが、疲れていたので僕も寝ることにした。 「よくがんばったね、アズミ」軽く頭を撫でてやり僕も床に就いた。今日は長い1日であった。

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無事3匹が産まれた。よくやったアズミ!

 

 

 

子供達

 今日で子犬たちが生まれて3日目。なんとなく一回りほど大きくなったような気がする。乳を飲んで寝ての繰り返しであるから成長も早い。犬も人間も生まれてすぐのこの頃が一番幸せなのかもしれない。彼らのあどけない寝顔を見ていると、そう思わずにはいられない。アズミの乳は今回よくでるようで3匹とも腹がくちると満足そうに良く寝る。  

 アズミは、ドッグフードを食べなくなってしまった。前回も食べなかったので、肉やジャガイモを煮てあげていた。そのことを覚えているのか? まるで、子供を産んだんだから、おいしいものを食べさせてもらって当然といった態度を感じる。乳が出なくなると困るので、やっぱり今回も肉や野菜、はては犬用の缶詰をやっている。日本では普通のことかもしれないが、ブラジル人の考え方から言えばちょっと甘やかしすぎである。でも、3匹も産んでよく頑張ったのだから、これくらいは仕方がない。腹がすくと、小犬をおいてエサの要求をしにくるのは、ちょっとずうずうしい気もするが・・・。まあ、許してやろう。 

   1匹は残すとしても、2匹は養子に出さなければならない(アズミのエサ代が結構かかるのでできれば誰かに買ってもらいたい)ので名前をつけることを迷っていたが、日記を書くのに非常に不便なので名前をつけることにした。  うちの犬は代々忍者の名前をつけることにしているので、漫画「ナルト」のキャラクターから名前を取った。最初に生まれた茶色をナルト、少し濃い茶色がカンクロウ、そして、最後に生まれた黒色をサスケにした。小犬たちは凄い勢いで成長している。生まれた時からすれば、大きは1.5倍ほどになったような気がする。それに応じて、乳も吸いっぷりがいい。アズミの張っていた乳はすっかりペラペラになってしまった。歩くと垂れ下がった乳房が三角のこんにゃくのように右左にペタンペタンと揺れる。

 乳の出もさすがに悪くなったようで、小犬は顔を振って、乳を吸っている。このままでは乳が枯れてしまう。食事を4食に増やし、できるだけたくさんの水を飲ますようにした。アズミは朝早くから飯の催促のやって来るようになった。自分の血を子供たちに分け与えているのと同じだから大変だ。母親の子供たちに対する愛情の深さは男の僕には想像もできない。

    今日で8日目。生まれたときから比べて随分大きくなった。成長の速さには驚かされる。生まれたばかりのときはサスケが弱弱しく、痩せた感じであったが、3匹ともほぼ同じ大きさになった。アズミはだんだん世話に疲れてきたのか、子供たちから離れることが多くなってきた。

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子犬たちの成長

   わずかに開いていたナルトの目が完全に開眼した。まだ薄膜を張ったような感じであるが、あと2,3日もすればすっきりとした綺麗な目になるだろう。後の2匹の目はまだわずかに開いた程度だ。

急に仕事で旅行に出ることになった。心配で心配で毎日家に電話して子犬たちの無事を確認していた。帰り着いて子犬たちを見て驚いた。3匹ともブクブクと大きくなり動き回る。わずか5日間でこれほど大きくなるものか! 旅に行く前は両手で余裕で3匹を持てたのだが、今は持てない。第一子のサクラはこれほど成長が速くなかったと思う。それだけアズミの乳の出がいいのだろう。

 3匹とも無事でよかったが、ピラニアが1匹死亡。水槽には食わなかったエサが浮かんでいた。あれほど、エサをやりすぎるなと言っていたのに・・・。魚に愛情を持たない人間に頼んだ僕が悪いのだとは思うものの、怒りを抑え切れず、彼女を怒鳴ってしまった。

 小犬たちはクウクウとよく鳴きうるさいほどで、母犬も子育てに少々うんざりしているようである。それでも、うんこやおしっこはきれいに舐めとって、寝床も小犬もいつもきれいである。母親の深い愛を感じた。

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小便もうんこもきれいにアズミは舐めとり寝床はいつもきれい。母の愛を感じる

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1番に生まれたナルト

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2番に生まれたカンクロウ

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3番のサスケ

 

 

 

離乳

 今日からドッグフードを砕いて粉にしたものを人間用の粉ミルクと混ぜて小犬たちに食べさせている。ナルトは非常に食がよく、かなり食べてくれるのだが、サスケは気分次第。カンクロウはほとんど食べない。

 アズミは子育てに疲れたのか、最近は僕の後をついて回って小犬たちの世話をあまりしなくなった。早く乳離れをさせて、少しでもアズミを楽にさせてあげたいのだが、まだまだ時間はかかりそうである。

 大分、犬らしい顔つきになってきた。それとともに、クウウクウとうるさいほどよく鳴くようになった。サクラはあまり鳴かなかったのでちょっと驚きである。やはり、オスとメスの差であろうか。あるいは、今回3匹一緒に生まれたので自己主張が強いのであろうか。

 小犬たちは離乳食をやっと自力で食べるようになってきた。小犬同士でじゃれあったり、アズミに噛み付いて怒られたり、次第にやんちゃぶりを発揮しはじめた。カンクロウが一番やんちゃで、他の2匹にいつも挑みかかっている。

 人間というものを徐々に理解しはじめたようで、呼ぶとナルトがしっぽを振りながらよちよち歩いてやってきた時には嬉しかった。

 3匹とも離乳食をかなり食べるようになった。アズミが乳をやらなくなったせいだ。彼らが乳首を噛むのでアズミも嫌なのであろう。そろそろ完全離乳もちかいようだ。だんだん足も強くなり、まだ足元はおぼつかない感じであるが、随分歩き回るようになってきた。

ドッグフードを嫌々ながらに食べていたという感じだったが、ひとりで皿から食べるようになった。

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アズミは疲れてきたようで、乳をやるのを嫌がるようになった。それにつれ、子供たちもドッグフードを食べるようになってきた。

 

 

 

夜鳴き

 昨夜、午前3時ごろ、サスケがクウクウと鳴き始めた。夜中だし建物中に響く。細かく砕いたドッグフードもあるし、水もある。何故鳴くのか解らない。しきりに囲いの外に出たがる。そのときはよくわからなかったが、どうやらウンコをしたかったようだ。近所から文句がこないかと冷や冷やしたが、ウンコをすると夜鳴きもなんとか治まった。

 が、今度はナルトが6時ごろに鳴き始めた。普段だと物分りの良いナルトは、ぴしっと背中を叩くと一度で鳴き止むのだが止まない。外に出すとウンコをし始めた。自分たちの寝場所でウンコしたくなかったのだ。いろんな自我や感覚が1日ごとに芽生えている。すばらしいことだが、その度に近所迷惑の心配をさせられ起こされるのは辛い。

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サスケは一番の泣き虫。小さな体に似合わず大きな声で鳴き始めたのでびっくりした

 

 

大鳴き

 犬の成長は本当に早い。1日、1日、大きくなり、感覚が芽生えていく。その驚くべき成長の速さについていけないほどだ。最近は、僕の言う事を少しずつ理解し始め、声の強さから、僕の気持ちを読むようになってきた。怒った声でいうと、3匹はさっと寝床に引き込むし、やさしい声で呼ぶと尻尾を激しく振りながら大喜びでやってくる。

 最初は何をやらしてもナルトが一番であったのが、ほぼ3匹が横並びになってきた。強さのランクもナルト、カンクロウ、サスケの順だったものがほぼなくなりつつある。

 とにかく驚くほど良く食べる。それにあわせて当然のごとく糞の量も多い。小便は新聞の上でしてくれるようになったが、なかなか糞をちゃんと新聞の上にしてくれない。これが今の一番の問題である。

年末に生まれた小犬たちは、問題も無くすくすくと育ち、今や第一子のサクラと顔の大きさは変わらなくなってきた。最初は3匹とも家で飼おうと思っていたのだが、問題がお

きた。

 当初、生活しているアパートに父犬とカンクロウとサスケ、事務所に母犬とサクラとナルトを飼うつもりだった。が、家族が皆、出払っている間に、父犬が子犬をいじめたようで、子犬は大鳴きし、苦情が殺到した。彼女はすっかり飼う気が失せてしまい、「アパートに犬を3匹も飼えないわ。早く人にやるか、売るかして!」とヒステリーを起こしてしまった。仕方なく事務所の方に、問題になったと思われるカンクロウを連れてきた。どうやらカンクロウは嫌われやすいタイプらしく今度は姉犬のサクラにしょっちゅういじめられ、大鳴きをする。

 それ以来、僕もこの子犬を手放す決心をして、ペットショップで売ってもらう話をつけていた。一晩考えているうちに、責任感のないブラジル人に飼われるのは、あまりにもかわいそうという気になってきた。犬好きと思われる友人たちに電話をかけて、「もらってくれないか」と聞いてみたが、皆答えは「残念だけど、もううちには犬がいるから飼えないわ」というものだった。やっと知り合いのブラジル人が欲しい、ということになり、持っていく約束まで取り付けたのに、前日に何回も確認の電話をしたが出ない。もう、ブラジル人は信用しない。すでにペットショップにはキャンセルをしていたので、もう1軒のペットショップに売ってもらう約束を取り付けた。

 今は、1週間ペットショップにおいてもらって売れなかったら、家で飼おうという考え方に変わってきた。姉犬もそれほどいじめなくなったし、去勢をすれば大人しくなるだろう。でも、小さなアパートで4匹のダックスフンドというのは少々きつい。

 今日、ペットショップにカンクロウを持っていくようになっていた。僕としても、自分で取り上げた子犬でもあるし、ほぼ3ヶ月間も一緒にいたから手放したくないがしょうがない。家に注射の証明書を取りに、カンクロウを連れていくと、息子が学校から帰っていた。

「今から連れて行くから」

「えっ、どこへ?」

「ペットショップだよ。売ってもらうんだよ。前に説明しただろう」

「僕は、カンクロウが好きなんだ!」といいながらカンクロウを抱きしめた。その様子を見ていた母親が、

「他のアパートには8匹も犬がいるところがいるんだって。上のアパートにも4匹いるらしいわ。管理人がいうには、他のアパートに迷惑をかけなければいいんだ、と言ってたわ」犬が鳴いて、近所から文句があり、管理人から罰金勧告を受けたときとは打ってかわり、彼女も手放すのが忍びないようだ。

 今更遅い、あのときはあれだけ、早く処分しろといっていたのに・・・・、と思いながら聞いていた。そりゃ、僕としても手放したくないのは山々であるが、事務所に4匹、家に2合計6匹となると考えてしまう。

 そうしているうちに、サクラ(姉犬)を去勢して家に持ってきても良いと彼女はいいだした。そうなると話は変わる。カンクロウとサスケも去勢すれば、もっともっとおとなしくなるだろうし、最近は僕の躾が功を奏し、ほとんど4匹の犬たちが大鳴きすることはない。1つのアパートに3匹だとギリギリ飼える線でもある。結局、僕の決心はもろくも崩れ、ひきつづきカンクロウは事務所で飼うことになった。

 しかし、3匹を去勢するためには500レアル(3万3千円)かかる。痛い出費である。6匹もいると、エサはよく食べるし、ものすごい量のウンコとおしっこはするし、大変だ。

「産ました者の責任」、息子が生まれたときに、知人から言われた言葉を思い出した。

 

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3匹も小犬がいると、どうしてもいじめられる犬が出てくる。生意気なカンクロウはいつもニンジャやサクラにいじめられる

 

 

動物たち

 初めてあった人と話していると、共通の話題が少ないので、どうしても家の話などになってしまう。そうしているうちに我が家の動物の話になった。

飼育している動物を挙げているうちに、自分自身もその多さにあきれてしまった。魚に犬に亀にハムスター、どれも数匹以上いるから生き物密度は高い。これらの動物は、1LDKの事務所で飼っていて、旅行に行かない限りはほとんど僕がいるから大丈夫なのだが、長い旅行などになると大変である。

 いつも、よくよく家の者にいいきかせて行くのだが、帰るとたいてい魚の数匹は病気にかかるか死んでいる。「愛情を持って面倒をみないからだ!」と僕は、ろくに水槽を見ることもせずにやったと思われる、水面一杯に浮かんでいるエサを見て、怒る。好きでもない動物の世話を任された方としてはえらい迷惑な話ということは重々わかっているのだが、魚が死のうがどうしようが、エサをやり続ける神経にはいつも切れてしまう。それでも最近は1つの水槽の魚を1,2匹にすることによって、死んでしまうことは少なくなった。

 動物たちは、今では僕の事務所と僕の生活ペースに適応してくれ、少しずつではあるが成長している。長い動物で10年以上も僕と一緒に暮らしているから、もはや手放すことはできない。

 

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陸ガメとニンジャ。最初はちょっかいをかけていたニンジャも最近はすっかり亀になれてしまった

 

 

 

 

2回目の注射

 今日は仔犬たちの2回目の注射の日。サスケとカンクロウが急激に成長し、リベルダーデ(東洋人街)のはずれにあるペットショップまで連れていくのが一苦労であった。2つのかばんに3匹を押し込み、僕は2つの鞄を肩にかけ、息子はニンジャ(父犬)を引いて歩く。さすがに4匹を連れて歩くと道行く人が注目する。「まあ、かわいい」「1匹くれ」などなど。路上生活者はしつこく見せてくれと絡んでくるし、道中それはそれは大変であった。

「まあ、大きくなったわね! もう売らないの?」と犬たちを見るなり台湾人の獣医は驚きの声をあげた。

「こんなに大きくなったら誰も買わないでしょ」 

「そんなことないわ、でもカーニバルの前後は難しいわね。皆旅行に行きたいでしょ、犬がいると家に放って置くわけにもいかないし、かと言って犬のホテル代は高いし、結局、道に捨てて旅行にいっちゃう人も多いみたい。この間も、プードルが道をウロウロしていたんで、かわいそうになって連れてきたわ」

 そんな話を聞いて売らなくて良かった、とつくづく思った。自分の都合だけで犬を飼ったり、捨てたり、まったくひどい話である。こんな話をきくと、ますますブラジル人には信用が置けなくなる。もしかしたら今の日本も同じようなものかもしれないが・・・・。

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診察台に置かれて心配顔のサスケ

 

 

僕の動物王国

「猫がいなくなって寂しいよ」

 最近家からアパートに引越しして、猫を手放した友人がポツリと漏らした。

 確かにうちから犬たちが、もし、いなくなったらさびしくなると思う。でもうちの場合は犬が4匹もいるので、半端じゃないうっとうしさである。例えば、ソファーに座ると先

を争って、僕の所にきて顔を舐めようとするから、うっとうしさも半端じゃない。時たま、舌を挿入され、ペッペッと唾を吐く始末である。毎日の食べる量もかなりの量になるし、うんこ、おしっこときたらもう驚きである。朝起きて、まず掃除をするのが日課になってしまった。

 とはいうものの、犬たちはすっかり僕になつき、やっぱりかわいい。何しろ母親を除いた3匹は僕が取り上げ、ずっと育ててきたのだから。以前はムツゴロウの「動物王国」に憧れたものであるが、まさか自分がこんなにたくさんの動物達を飼うことになるとは夢にも思わなかった。

 ただ、問題はつきない。隣近所の住人が、子犬がキャンキャンほぼ毎日鳴くのを聞いて、僕が虐待をしているように思っているようなのだ。

「アパートの住人が、あなたが犬をいじめているって騒いでいるようだから、気をつけろって、パウリーニョ(隣の犬好きのゲイおじさん)が言っていたわ」と彼女がいう。

 そんなことを言われても、僕が虐待しているわけではなく、最初に生まれたメス犬サクラが、子犬を噛んで鳴かすのである。また子犬もちょっと噛まれただけで大げさに鳴くので困ってしまう。鳴き始めると、苦情がくると嫌だから、子犬の口をつかんで一番音が漏れない寝室に駆け込む。近所の人々はそんな僕の苦労、気遣いをわかっていないから余計腹立たしい。

息子が余計なチャチャを入れて、「ペットショップい持って行って売ればいんだよ」という。さらに彼女まで「エドアルドの友達が欲しいって言っていたわ」と自分らには関係ないと言った感じで言うから腹がたつ。

「おまえたちが、売りたくないっていうから、ペットショップにもって行かなかったのに、今更遅い」と言って息子の顔を睨み付けた。そう言うと、彼はシュンとして何も言わなくなった。この辺を見ていると、本当にブラジル人だな、と思ってしまう。

 確かに4匹をアパートで飼うなんて難しいことだし、犬たちにとっても可哀相なことかもしれない。でも、ひどい飼い主に飼われるより、兄弟たちと暮らしていく方が幸せだろうから、もう手放すつもりは今のところない。子犬もほぼサクラと同じ大きさになってきたので、サクラにいじめられることもなくなるだろう。だから、今のところは何とか飼えると思っている。

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カンクロウとサスケは仲が良くいつも一緒。カンクロウは生意気でいつも皆にいじめられる。サスケは神経質。

 

 

心のより何処

 最近、家庭不和から始まっていろんな理由で情緒不安である。そういう原因を作る自分が悪いのであるが、結構つらい。そんな状態のせいか、3時ごろ目が覚めたり、夜眠

れなかったりすることが多い。こういうときは、犬布団で居間のソファ-で横になる。

 無邪気な4匹の犬たちを見ていると、暗い気分もしだいに薄れ、明るい気持ちになる。本を読みながら、4匹の犬たちと横になっているとほぼ確実に眠りに着くことができる。難は最初犬たちが、僕の顔を舐めたり、喧嘩したりでなかなかじっとしないことである。

 見ていると犬の性格がでてなかなか面白い。サクラはとにかく甘えん坊ですぐ僕の横に陣取る。カンクロウは一番おとなしく、足付近に、サスケは意外に積極的で、僕の胸に顔を乗せてくる。親犬アズミは腰付近でつつましくあまり自分を主張しない。子供が生まれる前は自分を目一杯主張する犬だったがすっかり変わってしまった。

 そうしているうちに、暑苦しくなって起きてしまい、またベッドに僕が帰ると、犬たちは不満そうな顔で自分たちの寝床に帰っていく。

 我侭な飼い主で、申し訳無いと思っている

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先を争って僕の膝上に駆け付けた犬たち。最近、毎日彼らに癒されている

 

 

 

3回目の注射

 日本ではどうか覚えていないが、ブラジルでは生まれた子犬は3回注射をうたなければならない。3回の注射を終えると晴れて外の散歩に連れていけるのだ。今日はその最後の注射。

 事務所で飼っている2匹の子犬、カンクロウとサスケはどんどん大きくなり、彼らより6ヶ月早く生まれたサクラとほぼ同じ大きさになってしまった。顔はもうサクラより大きい。家にいるナルトと合わせて3匹を2キロほど離れたリベルダーデのはずれにあるペットショップに連れていくのは一苦労である。しかし、よくこれほどまでに成長したものだ。犬は生まれてから1カ月が死亡率が高く、4か月を過ぎると安心できるそうであるから、もうこれで危険な時期は過ぎた。

 あまりの重さに、アパートのすぐ近くのペットショップで、注射しようかと考えたが、3回の注射は同じところでやった方がいいような気がして思いとどまった。今回は3匹であるから、さして目を引かないかと思ったが、その考えはあまかった。何人かに「その犬は売っているの?」と聞かれた。そういえば、おじさんが数匹の犬を抱えて売り歩いているのをしばしば見かける。犬売りおじさんに間違えられたのだ。もう、苦笑いをするしかなかった。

 やっと、ペットショップにつくと、予約していたのにもかかわらず、獣医は出かけていて30分ぐらいかかるかもしれない、と待つのが当然いう感じでいう。僕も苦労して

きただけにちょっとむっとした。

「注射はどこでやっても同じだよね? それじゃ近くのペットショップでするからいいよ」  と言って帰りかけると、「とりあえず電話してみるから」といいう。獣医に電話すると、後5分くらいで着くというので、結局待つことにした。

 この店のオーナーは台湾人でブラジル人に比べ信用はできると思うのだが、いろいろなモノが他の店に比べると随分高い。3ヶ月に一度、15キロの犬のエサを買うのだが、他の店に比べると600円ほど高い。それに対して文句をいうのも嫌だし、家から離れているし、今後は家の近くのペットショップに代えようと思っている。100円、200円ならいいが、500円以上も、他の店より高く取られると、買う側からすれば気持ちがよくない。

 3匹の注射代あわせて180レアル(12500円)。これも他の店よりも高いんじゃないか、とついつい思ってしまう。一度不信感を持つと僕はもうダメなのである。やっぱりショップを替えるしかないようである。

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3回目の注射。2週間後、やっと安心して散歩ができる

 

 

 

誤解

「アニマル! 犬をいじめるな!」

 魔女のようなだみ声が、建物中に響き渡る。

 この声と言い草を聞いて、ムラムラと腹が立ってきた。「何も知らないのになんなのだ! 言いたい放題いいやがって」そんな気持ちで一杯であった。

 また、カンクロウがサクラにいじめられて大鳴きをしたのだ。ちょうど午前中で、建物のおばさん連中が掃除や洗濯をしているときであった。あんまり腹がたったので窓から顔をだすと、案の定、上階のおばさんが顔を出して見ていた。他にも2,3の窓から顔を出したおばさん連中が僕のアパートを見ている。

「何も知らないのに、そんな言い方はやめてくれ! 犬がもう1匹の犬をいじめて鳴いているだけなんだから!」

 まさか、僕が言い返してくるとは思っていなかったようで、彼女のトーンも大分落ちた。さらに追い討ちでサクラとカンクロウを抱き上げて見せてやった。

それを見て彼女は「ボニチーニャ(かわいいわね)。もしいじめたら許さないからね!」「だからいじめていないと言っているだろ。もし、いじめていたら、顔を出して言い返したりしない!」犬たちを見て彼女の言い方も大分やわらかくなってきた。

「1匹あげればいいのよ」と彼女。バカが! ブラジル人は他人のことだとすぐに簡単に考えるのだ。もう、うんざりして話す気もなくなった。彼女らは暇で暇で、他人事で何かが起きるのを待っているだけなのだから。

 ブラジル人は明るくて、親切で、親しみ易くて、・・・・・、といのが日本人の一般的な印象であろう。しかし、僕が見るに、それは外面だけで、内面は無責任で、粘着質で、いつも人の陰口を叩き嫉妬深い、利己的。それが僕のブラジル人に対する印象である。もちろん、本当に人のいいブラジル人もいるが、僕の会ったそういう人はほんのわずかである。それだけ、僕の暮らす環境は品がない所のかもしれないし、僕自身の性格が悪いために、類は類を呼んでいるのかもしれない。

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広場でのサンバ・コンサート。ブラジルには、世界中のあらゆる人種がいるのでいろんな人がいる。皆、表面上は親切で人が良さそうに見えるが、実際は利己的で陰湿な人が多い。

 

 

 

サクラの悪癖

よくサルのセンズリといわれるが、うちのメス犬サクラも大好きで少々見苦しいほどである。性器をこすりつけながらオス同様に腰を振るので、どうも生生しく笑って見てい

る気にはならない。発情期に、オス犬をあてがわなかったせいだろうか。

 センズリ専属のサスケはその度に迷惑そうな顔をしている。なんとか姉のこの行為から逃亡を計ろうとするが、まだ彼女の方が素早いし、逃亡しようとすると怒って噛むのでいやいやながらもこの約に甘んじているようである。もう少ししたら、大きさも逆転するだろうから、逆の立場になってしまうと思うが。

 とにかくサクラは欲が深い犬で、一番にかわいがってもらいたがるし、嫉妬も強い。食べ物にも貪欲で棚の上に置いてある食べ物を引きずりおろして食べてしまうのもたいてい彼女である。最初に1匹だけ生まれた犬なので、大切にかわいがって育てたにもかかわらず、この様であるから貪欲さは彼女の持って生まれた性格なのであろう。それとも可愛がり過ぎたせいだろうか?

 交尾をさせてあげたいが、もう、うちは犬を飼う余裕はないので、残念ながらセンズリで我慢してもらうしかなさそうである。

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サクラ(茶)とサスケ(黒)。サスケの方が体も大きくなったのに、サクラのおもちゃにされてしまう。サクラが横に来ただけでサスケの表情が硬い。

 

 

去勢

 どうもアズミが発情期を迎えているような感じなので、2匹の彼女の息子たちを去勢しなければと考えていた。昨日、獣医に電話すると、町に犬猫があまりに増えすぎていることから、市の条例で去勢を奨励しているらしい。そのおかげで1匹150レアルだった去勢料が105レアルになるという。それを聞いて今日去勢することを即決した。ナルトは父犬ニンジャと家で飼っているからとりあえずは去勢する必要はないから、サスケとカンクロウの2匹だけである。

 今日は2匹にとって初めての自分たちの足であるく外出である。問題は家に残していく2匹のメス犬が寂しがって鳴かないか、ということであったが、それほど騒ぐことなく2匹を連れ出すことができた。あまりにあっさりしていたのでこちらが拍子抜けしたほどである。

 2匹の子犬は、外の雰囲気にドギマギしているようでいまいち闊達に歩いてくれない。信号待ちではサスケはクウクウと鳴いている。3匹生まれた中で一番大きくなったが、一番の小心ものなのである。外に連れ出すのは予防注射のために3回連れ出しているから、これで4回目なのだが、やはり自分の足で歩く、地面から20センチほどの世界はまるっきり違うようで、怖いのだろう。今までは病気にかからないようにするために、散歩はしなかったが3目の注射をしてから15日後なので散歩も解禁である。これから4匹を散歩に連れていくとなると、2回に分けないと無理だろう。それを考えると少々うんざりするが・・・。

 やっとリベルダーデのはずれにあるペットショップにつく。意外にも2匹はへこたれることもなく自分の足で歩き切った。サクラのときは歩ききれずに最後は抱いて連れてきた覚えがある。さすがオス犬である。もっとも、2匹は大きさではもうサクラを追い抜いて、母犬アズミとほとんど変わらないから体力がある。手術のために、獣医に引き渡すが思ったほど鳴かない。これがアズミやサクラだったら、鳴いて仕方がなかったろう。少し物足りなさを感じながらペットショップを後にした。

 それから6時間後連れに行くと、サスケがなんとなく情けなさそうな顔をしている。玉を抜かれたのだから当然である。以前パンタナール(世界最大の湿原。牧畜が盛んな地域)で放牧している牛の去勢を見たことがある。麻酔もかけないで、袋をナイフで切り玉を取り出した後は輸精管を引きちぎるように玉を取る荒っぽいものであった。途中で輸精管を切ったりするよりは、引きちぎる方が、輸精管が体内に残らないのでこの方法が一番いいらしい。しかし、見ているだけで、こちらの玉も痛くなる。玉を取られた牛は怒って向ってくるところがなんともモノ哀しかった。ションボリして群れに帰っていくよりは良いかもしれないが・・・。取った玉は持ち帰り、茹でたり炒めたりしてカウボーイたちは食べる。僕も何切れかご馳走になったが、取り立てで新鮮なせいか軽い歯ごたえがありさっぱりした感じであった。ただ去勢を見た直後だったのでさすがにバクバク食べる気にはならなかった。

 外は雨がザーザー降っている。何も用意していないのでタクシーにも乗れない。雨が降っているところを歩かせても大丈夫かと聞くと、傷は小さいものだから大丈夫だという。ちょっと心配だったが、この言葉を信頼して雨の中を歩いて帰る。サスケはクウクウと鳴きながら歩いている。途中、タクシーに無理に乗せてもらえば良かったかな、と思ったが、こんなに濡れてしまっては後の祭りである。やっと家に帰り着き傷口を見ると、縫合跡が痛々しい。どうみてもあまりうまい手術には見えない。今となっては犬たちの治癒力を信用するしかないのだがちょっと心配である。

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サスケの手術跡。どう見てもあまりうまいとは思えない

 

 

初めての散歩

 今日は土曜日だし天気がいいので、犬の散歩に出かけよう、と決めていた。仔犬たちは、生まれて初めての散歩である。3回の予防注射が終わってやっと自分たちの足で外を歩けるようになったのである。さすがに4匹の犬を連れて独りで歩けないから、息子を誘う。

 どうも犬たちが騒がしいと思っていたら、息子が父犬のニンジャを連れてきていたのである。まだ、廊下にいる状態なのに、4匹の犬たちは敏感に察してクウクウと鳴いている。事務所にいる4匹だけの散歩にするつもりだったのに・・・・。

事務所に2匹だけ置いておくと、大鳴きをしそうだったので、とりあえず家の2匹、ニンジャとナルト、そして事務所のサスケを連れて出ることにした。ナルトは3匹の中で最初に産み落とされたが、今では一番小さくなってしまった。しかし、3匹の中では一番人見知りが少なく、大胆な犬である。今では彼女が溺愛し散歩に連れていく、というと嫌そうな顔をされてしまった。

 3匹のダックスフンドを連れて歩くとかなり目立つ。もしこれが6匹となるとどうだろう。考えただけでぞっとしてしまう。ダックスフンドはサンパウロではヨークシャテリアと同様に人気の種で、たくさんの人が飼っている。小型で大人しく、安いからであろう。一時期、筋肉モリモリの男や若者が、威圧するようにピットブルを連れて散歩していたが、人をかみ殺す事件があいついだために、最近ではめっきり見かけなくなってしまった。その点、ダックスフンドは見かけも愛嬌があるので、連れて歩くのは楽である。が、サクラとアズミは気が強く、触ろうとする人間に吠え掛かるし、他の犬を見ると向っていこうとするから、結構気を使う。

 今日、連れ出した3匹(ニンジャ、ナルト、サスケ)は大人しく歩くのは楽であるが、サスケは怖がって大声をあげて鳴く。この点が難であるが、何回か連れて歩くうちに慣れるだろうと思っている。

 犬たちが外を歩けるようになったので、できるだけ散歩に連れて行ってあげようと思うが、2回に分けて連れていくことを考えると少々億劫になってしまう。

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3匹もいると大変

 

 

 

抜糸 

 今日は玉抜きをした犬たちの抜糸の日。一時期カンクロウの金玉部分が腫れていたので心配していたのだが、腫れもひいていき、だんだん小さくなってきた。

 息子と一緒にペットショップに2匹を連れていく。行くとそのまま待合室の2階にあがってくれ、というので待っていたのだが、30分過ぎても40過ぎても声がかからない。少なくとも、時間がかかるならかかると報告するのが客に対するサービスでなかろうか。息子が友達と待ち合わせた時間が迫っていた。ちょうど対応した女性がやってきたので文句を言った。

「何故、時間がかかるなら、かかると最初から言ってくれないんだ!」

対応した女性は無言で何もいわない。電話を入れた時に忙しいなら忙しいといえばいいのだ。そしたら他の日にしたのに。その様子を見ていた、先に来て待っていたお客が、先に行っていいよ、と言ってくれた。

 対応した女性は、口ばかりうまくて、どうも前から好きでなかった。客が来ると、コミッションを稼ぐために、すぐ飛びつくようにやってくる。そのくせ、一見対応はよさ気に見えて動物の扱いは悪い。こんな女は嫌いなので、余計今日の対応は僕の癇に障ったのだ。女性は下を向いてそそくさと降りて行ってしまった。

「抜糸をするだけだから、すぐに済むと思うので。どうもありがとう」

 と譲ってくれた客にお礼をいった。

その客と会話をしているうちに、「去勢をしたの? どうしてそんなことをするの? 私は嫌い」決して嫌味はない言い方だが非難されてしまった。僕も不自然なことをするのは嫌いでできればしたくなかったので、彼女の言い分はよく解る。

「母犬と姉犬が一緒にいるので仕方ないんです」と説明すると彼女も納得してくれた。

 やっと僕の番がきた。入るなり獣医に、もうちょっとちゃんとしてくれ、と文句を言った。始めはキョトンとした様子できいていた。どうやら彼女は何も聞いてなかったらしい。

「そうなのよね。彼女はそういう所がダメなの。彼女は私のことを嫌っているし・・・。来月には辞めてもらうことになっているから」

多分他の客からも文句があったのだろう。

 2匹の抜糸は5分もかからずに終わってしまった。

 日に日に小さくなっている彼らの金玉を見ていると、どうも哀れで仕方がない。もう、2度と去勢はしたくない。

 

 

煩い住人達

 やっと気持ちもスッキリし、青空の広がる気持ちのいい天気で、今日は晴れ晴れしい気分である。そんなとき、彼女から電話がかかってきた。

「アパートの管理人から言われたんだけど、犬を虐待するな、っていう苦情があったって言ってたわ。私も、虐待なんかしていない、犬同士が喧嘩しているんだ、って言ったんだけどね。あなた一度自分で話してきた方がいいわよ」

 その電話を受けて、腹がたってきた。これだからブラジル人は嫌いなのだ! 何も知らないのに文句ばかり言って自分の主張ばかりする。関係の無いことも含めてブラジル人に腹が立ってきた。

 この管理人はウソばかりついて僕の嫌いな奴なのだ。

「(僕の)アパートで亀を飼っているという通報があって、イバマ(野生管理局)の人間がやってきたんだけど、住人の許可がないと入れられないって、言って帰ってもらったよ。でも、また来ると言っていたよ」

 と、この管理人はいかにも本当らしく抜けぬけと僕に言ったことがある。後で門番やいろんな人間、はてはイバマまで電話したが、そんな人間は来てもないし、行ってもないという。管理人の嘘だったのである。ブラジルでは野生動物・植物は一切飼育してはいけないことになっている。うちには、熱帯魚をはじめカメなどがいるために、このときは慌てふためいた。そんな飼っちゃいけないものを飼うからいけないんだ、と言われれば何も言えないことなのだが・・・・。ただし、熱帯魚にしろサボテンにしろ店屋でおおっぴらに売っているし、みんな飼っている。だから良いっていう話ではないのだが・・・。

 カメは知り合いの農家に預かってもらい、サボテンは人にあげた。熱帯魚は店屋で聞くと、魚の名前の入った領収書があれば大丈夫だという。もちろん買ったときに名前の入った領収書なんてもらわないから、わざわざ作ってもらった。

 嘘としらない僕は、迷惑をかけたお詫びに管理人にとっておきのワインまであげた。あいつは、どんな気分でこのワインを飲んだのだろう。思っただけで腹が立つ。

 それ以来、会っても挨拶もしないし、無視している。その管理人に会うなんて最低である。他の犬に噛まれて傷のあるカンクロウを連れて管理人室に行ったが、運良くいない。代わりに、カンクロウの傷を見せながら別の責任者に説明した。

「わかりました。何かあったら電話します」という話だった。

 あまりブラジル人の悪口ばかりいいたくないが、ほとんどのブラジル人は外面ばかりよくて内面はイヤな奴が多い。ブラジル人ばかりのアパートに住んでいると余計に嫌な面が見えてくる。

 でも、本当は程度の差こそあれ、日本でもアメリカでも、何処の国でも同じようなモノなのであろうと思っている。

 

 

さよならサクラ、ナルト

 久しぶりにサンパウロの郊外のゆったりした雰囲気を味わっているときに携帯がなった。

「あなたの家の犬が鳴いて煩いって文句がきているわ・・・・・」

 彼女のいらだったキンキン声が、堤防を決壊して流れ込んでくる濁流のように、僕の耳突然押し寄せてきた。

 またか・・・・。おそらくサクラが弟犬を噛んだのだろう。近所の住人は僕が犬たちを虐待していると思っていて、署名運動をしようとしているらしい。勝手にヤレ! ますますバカなブラジル人が嫌いになっていく。もう、うんざりだ。いくら事情を説明しても聞こうとしない。

 慌てて帰り、事情を聞き、とりあえず家の方にサクラを移そうと思っていた。

「犬を欲しいと言っていた人がいるから、電話してみるわ。いいでしょ!」彼女がいらいらした口調でいう。

「いいよ」

 早速彼女が電話すると、すぐにとりにきてくれることになった。最近物事が流れ始めると、ものすごい速さで進むのを感じる。彼女が建物の玄関まで連れていった。すぐに僕もその後を追って行きサクラを見ると、バスタオルにくるまれてサクラが心配そうな顔をしていた。近づくと僕に抱かれたがり暴れる。抱いてやると静かになった。不憫で堪らない。事務所の犬たちがサクラを連れ出すときに鳴いていたので、心配になり戻っている間にサクラは連れていかれていた。

「よさそうな人だったわ。住んでいるのは家だし、他にもたくさん犬がいるんだって。きっとサクラもすぐなれるわ。渡すときサクラもぜんぜん鳴かなかったわ」

 サクラは観念していたのだ。ああ~、サクラ。さようなら、サクラ。

家で飼っていた親犬のニンジャが、誰もいないときにアズミを懐かしがり大泣きしてしまった。2,3日前から盛りがついてイライラしているのをなんとなく感じていた。やりたくてやりたくてたまらなくなったのだろう。建物の管理人から再びクレームが入り、今度鳴いたら罰金だと脅された。別の家の犬が鳴いたものまでニンジャが鳴いたとされる始末で、管理人がうちの犬たちを追い出しにかけようとしているのが解る。この管理人はその偉そうな態度から多くの住人にも嫌われているのだ。底意地の悪さに腹が立つ。

 罰金と聞いて彼女がすっかりおののいてしまい、ナルトを誰かにやり、ニンジャを事務所に移すと言い出した。彼女はさっさとナルトの引き取り先を決め、ナルトは僕が知らない間に人の手に渡ってしまっていた。彼女の利己的なところに腹が立ってたまらなかった。

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さよなら、ナルト。次々と犬たちが僕の手元を去っていく。悲しくてしょうがない。

 

 

決定的な大泣き

 いろいろ問題が生じるものである、電話問題、犬問題、健康問題。犬問題は解決したようにみえたが、新しく事務所にきた父犬が村八分状態で、怒って仔犬たちを噛むために、結局また家に戻し、寂しがらないように更に母犬も一緒に連れていった。子犬たちは寂しそうにクウクウと鳴くが仕方ない。2匹も犬がいなくなるとさすがに僕も寂しい。

最近の激変する温度変化と犬問題から生じるストレスのために上がる血圧が舞い上がっていた。そこで毎日屋上を走ることにした。せいぜい15分、20分走るくらいだが、少しずつ下がっている。あとは食事に気を使って、できるだけ塩分を控えている。他にも2,3の問題があるが、少しずつ解決していこうと思っている。

 たかだか20分の走りだが、結構疲れてこの頃は熟睡している。しかし、自分が健康のために走るようになるとは思いもよらなかった。本当オッサンである。しかし、あと10年は自分のやりたいことをやれるような体でいたいから、1日20分走るくらいは我慢するしかない。

 昨日の晩友人宅で過ごした。それなりに楽しい一夜で満足したひと時であった。朝、目を覚まして電話を見ると、家から7回も電話がかかっている。嫌な予感を感じつつ電話を入れた。

予想はあたり、最悪の連絡だった。

「昨日、夜いなかったの! 一晩中あなたの家の犬は鳴いて、苦情が殺到したのよ。私も今朝しったわ。すぐ隣の男は警察に訴えるっていっているわ」

「・・・・・・・・、すぐ帰るよ」

 やっぱり犬たちだ。先日から母犬と別れて仔犬が2匹だけで暮らすようにしていた。気の小さなサスケは、些細なことで鳴くようになっていたので少し気にかかっていた。でも、もう1匹いるから寂しがることはないだろうと、安易に考えていた。

 昨日は散歩に連れて行ってやり、その後風呂に入れてやり、できうる限りのサービスをしてやったのに・・・・。アパートに着くなり、門番が渋い顔で「昨晩苦情が殺到したよ」と言ってきた。そして150レアルの罰金を払えとの通告の紙を渡してきた。

 アパートには子犬2匹しかいなくなっていたからこれで大丈夫だろうと思っていたのが甘かった。こうなったら仕方ない。処分するしかない。7は20日ほど日本に行くことになっていたし、仕事で旅に出ることも多い。しょっちゅう犬に鳴かれると、近所の人間にも、後の世話をする彼女にも迷惑をかけてしまう。彼女は犬のことでほとんどノイローゼ状態である。近所の男は「今日中に処分しないと訴える」とまで言っているらしい。そんな無理なことは当然無視するつもりであるが、ここまで大量の苦情がきたからには、残念であるが処分するしかない。まさに苦渋の選択であった。

 犬たちのために、いいエサをやり、3回の予防注射、世話などとりあえず僕のできうる限りのことをしてきたつもりだが、結局ダメだった。鳴かないように教えてきたのだが、異常に気の弱いサスケはつくづく母犬と別れまだ1週間もたっていなかったせいもあり、もう1匹の兄弟犬がいても寂しかったのだろう。今までこれほどの大鳴きはしたことがなかつくづくったのでまさかこんなことになるとは思いもよらなかった。僕の見通しがあまかったのだ。

 すべてタイミング、流れだと思う。彼らとは別れる運命にあったのだろうと、考えるしかなかった。安易に犬を産ました罰だ。いろいろな反省、後悔が頭の中をぐるぐる回る。彼らと別れるのは本当に辛い。とにかく今は最良の貰い手を捜すしかない。

 犬を出すことを決めてから、何にもやる気がしなくなった。食欲もなく無理やり食べている次第である。たかが犬、されど犬だったのである。これも流れだと、割り切っていたつもりだが、出産から今まで6ヶ月も一緒だった彼らとの別れは、頭では解っていたつもりだが、実際はなかなか簡単に受け入れられない。思っていた以上に彼らは僕の中で重要な位置を占めていたのだ。

 なんとか良い引取り先が見つかればよいのだが・・・・・。昨日は知り合いに電話をかけまくってお願いしたが、まだ誰も返事がこない。たいていの家はすでにもう番犬を2,3匹飼っており、もうそれ以上は飼いたくないのだ。

 2匹を見ていると忍びないが、仕方ない。まったく・・・・、まったく・・・。あの夜出なければ・・・。

 気力がなえれば、いい流れもやってこない。気力の充実を図り、自分自身を励ましていくしかない。しかし、辛い。こんなことになるとは。

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ああ~、サスケ、カンクロウ。こんなことになるなんて・・・。僕の考えが甘かった、ごめん

 

 

さようなら、カンクロウ、サスケ

 暗くなったアウグスタ通りを2匹の犬を引いて、引き取り手の待つ事務所を目指して歩く。初めての夜の道だけに彼らは不安そうな顔をしてときおり僕の方を見る。

 歩くうちに悲しくなってきた。

 ゴメンネ、ゴメンネ、彼らを手元におけなかった自分の無責任さと後悔と情けなさに身を焦がしながら、歩く、歩く、夜の店のケバケバしい赤や緑のネオンがゆっくりと過ぎていく。なんでこんなことになったのか。そんなことを考えても今更しょうがないのに、ついつい考えてしまう。

 

 午前中に「1匹犬をもらってくれる人が見つかったわ」と彼女から電話があった。

本当は2匹一緒にもらってくれる人を希望していたので、どうしようか迷っていた。友人が1匹欲しいと言っていたので、これで解決できる。でもこの友人はあまりあてにできないのであまりあげたくなかった。しかし、もし断れば、もう他の話は来ないかもしれない。

 2匹の兄弟犬は非常に仲がよく1匹を叱っていると、もう1匹が近くにきてあたかもイジメルナ、というように哀しげに吼えるほどであった。そんなことを考えていると、引き離すのは忍びなかった。でも仕方ない。

 いろんな人に電話をかけていていたので、とりあえずなんとかなりそうだ、という連絡をいれようと、見つけてもらえそうだった一番可能性のあった知人に電話をした。

「別々ですが取りあえず、貰い手が見つかりました」

「そうですか。できれば2匹一緒にもらってくれる人を私も探していたんですよ。

残念ですね・・・・・・、まだ時間があるならもう少し探して見ますよ」

「でもあまり時間がないので」と一度は断ったのだが、確かに2匹一緒の方が彼らのためにはいい。別々だと、あまりに気が弱く、怖がりのサスケはきっと性格がひねくれた犬になるだろう、などなど、考えているうちに何とか2匹一緒に引き取ってもらえる人を探そうという気になってきた。彼女に欲しいと言っていた人に1,2日待ってもらうように連絡してもらい、慌ててまた知人に電話して探して頂く。

 2時間後、その方から2匹一緒にもらってくれる人が見つかったという電話を頂いた。きっと仕事もせずに探してくれたのだと思う。なんとお礼を言ったら良いのか・・・。隣人には、僕が犬を虐待する最低の人間として村八分状態になっているだけに、その方の親切は嬉しかった。いくらそんなことをしてないと言ってもわからない、くだらないブラジル人にどう思われようと屁でもない。しかし、出来る限りの愛情を犬たちに注いできた犬たちと別れるのは辛かった。

 1時間後、貰い手の事務所の下で2匹を見せる。気の弱いサスケは吼える。カンクロウも震えている。これで大丈夫なのだろうか。心配になってきた。彼が持ってきたダンボールに2匹を入れると魔法にかけられた様に急に静かになった。自分たちがどこかに連れていかれることを受け入れたのかもしれない。どうしようもない、自分自身が情けなくなった。車に入れられ、扉が閉じられた。彼らは一鳴きもしない。ただただ震えている。もう、それ以上見ていられなかった。さようなら、もう一生会うことはないだろうが、立派に大きくなれよ。いつもじゃれてくるキラキラしたカンクロウの目が、甘えてくるサスケの顔が、帰りのバスの窓ガラスに浮かんでは消えた。

結局、残ったのは親犬のニンジャとアズミであった。彼女はもう犬を家で飼いたくないというので事務所で2匹を飼うことになった。4匹の子犬たちとの生活は、今思うと本当に楽しかった。彼らを手放さなければならなかったことは残念でしょうがない。4匹とも、僕の知らない人にもらわれてしまったので、もう僕には彼らの消息は知る術はない。彼らが、新しい飼い主に可愛がってえることを祈りたい。

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連れて行く前の、最後の写真。さようなら、カンクロウ、サスケ

 

 

 

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