ブラジル・ダックス奮闘記 完成版

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息子とニンジャ                   

息子に、9歳の誕生日に約束の犬を買ってから、1ヶ月半が過ぎようとしている。

僕が日本からブラジルに帰って来た頃の息子は痩せ、以前の輝きが失せていた。その豹変ぶりは、「こいつは、こんなに不細工な奴だったかな?」と思う程であった。そんな息子も犬のおかげか、次第に元気を取り戻してきた。

 ニンジャは、短毛茶色のダックスフンド、購入したときには多分4ヶ月を過ぎていたと思う。日本だと売れ残りとして処分される大きさであったから、買うのを躊躇した。やはり飼うのなら、慣れやすい3か月ほどの子犬の方がいい。息子に「本当にこの犬でいいの? 別のペットショップの小さい奴がいいんじゃないの?」と何度も聞いた。しかし、彼は何故かこの茶色いダックスフンドが気に入ったらしく、「この犬がいい」と言い張るので、仕方なく購入した。

ニンジャという名前は、息子が生まれる前から飼っていたドーベルマン・ピンチャーの名前であった。初代ニンジャは今年老衰で死んでしまった。本当は、自分の犬だということを意識させるために、息子に名前をつけさせるつもりであったが、彼が思いつく名前はどうもパッとしない名前ばかりなので、「もう、ニンジャにしよう」と僕が決めてしまった。

 ニンジャは、頭がいいのか悪いのか、イマイチよくわからない犬で、名前を呼んでもこないし、トロいし、子犬の愛想がなかった。一度、公園に連れて行くと、しばらく息子の後ろをついて歩いていたのだが、人が通り過ぎると、その人の後をついて行くといった調子である。今までたくさん犬を飼ってきたが、こんなアホ? な犬を飼ったのは初めてである。さすがに息子もこのときは呆れたようで、ちょっと哀しそうな苦笑いを浮かべてニンジャを見ていた。

トロいうえに寂しがり屋で、1匹になるとキュンキュン鳴いて煩い。ペットショップでもショロン(泣きん坊)と呼ばれていた。しかし、その哲学者のような顔つきと、身体に似合わない太くて短い足が、妙に愛嬌があり憎めない。

 だんだん悪さを始め、息子に対する態度も悪いので、インターネットで犬のしつけ方を調べて息子に伝授した。それで大分ましになったが、まだまだである。飼ったのが遅かったせいか、もともアホなせいかかよくわからない。それでも息子はニンジャのことが大好きなので、仕方がないかと思っている。 

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9歳になった息子の誕生日プレゼントとして買ったニンジャ

 

 

 

アズミとの出会い

   いつも熱帯魚を買っているペットショップの店先を通ると、店に誘われるようについ入ってしまった。思わず犬の檻を見ると、黒いダックスフンドが丸まったまま、哀しげなまなざしで、僕をじっと見つめてきた。その真っ黒な瞳は、まるで「ここから救って」と、訴えているようだった。その犬を見て、僕の気持ちは大きく揺れた。しかし、家には既に1匹いる。じっと檻の中を見ている僕に従業員が、「そのメスの黒犬、安くしとくよ」と軽く誘ってきた。そうかメス犬なのか・・・。ニンジャはオスである。しかも同じ種類のダックスフンド。息子に子犬の生まれるところを見せるのもいいかもしれない。もう、僕の頭の中は彼女を買うあらゆる理由を探し回り、「2匹も飼うなんて大変だ」という冷静な考えを打ち負かしてしまいそうである。ズボンのポケットに、今日は偶然にもクレジットカードを持っている。どうしよう・・・。ということで買ってしまったのが、アズミである。名前は、小山ゆうの忍者漫画にでてくる、あのアズミからとった。

 家に連れて帰った初日から彼女はニンジャを圧倒していた。床に放されると、そのまま餌入れに向かい、ドッグフードを食べ始めた。ニンジャもその食欲に誘われ、何度か一

緒に食べようと近寄ったがその度に、アズミは唸り、ニンジャを寄せ付けなかった。

「なんでアズミはニンジャに食べさせようとしないの?」息子がびっくりして聞いてきた。

「アズミは育ちが悪いから、全部自分のモノにしたいんだよ。おまえもモノを食べる時には一人で食べるようなことはせず、皆に分けなくちゃいけないよ」と教えた。息子は納得したような顔をして軽く頷いた。

 ニンジャはペットショップのオーナーが飼っているダックスフンドが産んだもので、可愛がられのびのびと育ってきている。親犬はどちらも血統書つきで純潔のダックスフンドらしい。一方、アズミは、しっぽもちょっと曲がっているし、もしかしたら他種の犬の血が混じっているかもしれない。最初見たときには毛づやもなく妙にみすぼらしかった。多分、どこかの貧乏なブリーダーからペットショップが安く買い叩いたのではないだろうか。

 アズミが来てから何日かたったが、いつもニンジャは食べ物を横取りされ、すぐそばで彼女が食べているのを哀しそうな顔でじっと見ているという状態であった。ところが、アズミは人に対してゴマすりがうまい。粗相をしても、怒ろうとするとすぐ腹を見せて服従ポーズをするものだから、怒ろうにも怒れない。世渡り上手な犬なのである。先住のドジなニンジャに比べ、知能、運動能力、どれをとっても勝っている。しかし、ただひとつニンジャの勝っている点がある。それは、いかにも愛嬌のある、短い足にずんぐりむっくりした身体、そしてトロそうな顔である。たぶん見かけでは彼の方が万人に好かれるだろう。

 ニンジャを家に連れてきて3か月がたった。年頃になったのか、時折アズミ相手に腰をふるようなそぶりを見せ始めるようになった。見ていると、ニンジャがアズミの後ろに回り腰を振りそうなそぶりを見せた。と、アズミはくるりと向きをかえ、ニンジャのペニスを舐め始めた。あわてて2匹を引き離した。明らかにアズミには年齢的にまだ交尾は速すぎる。しかし、アズミはいったいいつこんな悪い癖を覚えたのであろう。子供を作るという僕の思惑はもしかしたらダメになるかもしれない。

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アズミは欲が深いが、人には従順。ニンジャはいつも腰の下に敷かれている

 

情けない犬たち

 土曜日は息子の少林寺拳法の日。息子を送って行くついでに犬たちも一緒に連れて行くことにした。練習場のあるリベルダーデまで僕の家からで約2キロほどであるから、往復4

キロ。犬の散歩としては、遠すぎもせず近すぎもしない距離だと思っていた。

 今日はアズミの本格的な散歩としては初めての日である。ブラジルでは、犬が生まれると狂犬病などの予防接種を3回受けなければならない。この予防接種を怠るとかなりの確率で病気にかかるらしく、3回の予防接種が終わるまでは外に連れ出さないように、と獣医に言われていた。つい先日、アズミは3回目の予防接種を終えたばかりであった。

 行きの後半あたりから、アズミの歩くペースが少し遅くなったように感じた。多分初めての散歩なので、いろんなものに興味を持って遅くなっているのだろうと僕は勝手に解釈していた。ところが息子を練習場においての帰り、赤信号で立ち止まるとアズミがべたっと地面に横たわってしまった。ここで初めて彼女が疲れきっていることが解った。犬でも疲れるのだ! 驚いた。勿論、疲れるのは解るが、犬に対する僕のイメージは、とにかくタフであるというイメージが強い。1キロやそこら歩いたくらいでは疲れるわけがないと思っていた。確かに、この日は歩くのも嫌になるくらいのカンカン照りであったが、それにしても情けない! 慌てて、日陰に入って休憩するとニンジャまでも疲れたと言う感じでごろりと横になってしまった。あ~あ情けなや。それでも犬か! お前達の祖先は疲れを知らない猟犬だろう! 人間と同様、犬も都会で代を重ねるうちに軟弱になってしまったようだ。

 その後、体重約3キロのアズミを抱き、さらにニンジャを引いて帰った僕は、午前中にあった仕事の疲れもあり、久しぶりにヘトヘトに疲れてしまった。

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ブラジルに渡ってきて、猟犬の血筋は薄れたようで、うちの2匹の犬は軟弱

 

 

アズミとニンジャ

 2匹の犬たちの悪戯ぶりは、うんざりするほどであった。とにかく食えそうなものがあるとどこでも上がって何でも食べてしまう。テーブルに置いてあったラーメンがないのでおかしいなと思って探してみると、噛み破られた袋が中は空っぽ状態で見つかった。犯人はおそらくアズミだ。忍者の名前をつけたせいか、特にメスのアズミはどこにでもひょいひょいとあがり、手当たり次第に食ってしまう。まるで猫である。ダックスフンドは足が短いので、跳躍力は一見なさそうに見えるのだが、ところがどっこい長い胴と強靭な足腰をいかして、50cmぐらいだと平気であがってしまうのだ。さらにアズミは高いところを恐れないし、落ちることを恐れない。過去に何匹か犬を飼ってきたが、こんな犬は初めてである。

 彼らとの散歩は、それなりに楽しいのだが、アズミは、チビのくせに気が強く、道で他の犬に鉢合わせをすると吠え掛かっていく。それが自分よりも何倍もでかい強そうな犬であろうとお構いなしである。そうなると、オス犬のニンジャも、「仕方がない俺も吠えるか」といった感じで一緒に吠え始める。その激しい吠え声を聞いて周囲の人たちはいったい何事かとこちらを見るし、中には「うるさい!」と声を張り上げる男もいる。周囲の注目を一身に浴び、恥ずかしいやら、腹だたしいやらで、どこかに身を隠したくなってしまう。

ニンジャは内弁慶で、外ではおどおどし散歩をするときは尻尾を股に挟んで歩いている。見ていて非常にかっこ悪い。家にいる時と同じに、針金のような尻尾をピンと立てて歩いて欲しいのだが・・・。一方、アズミは家にいるときは、人に対しては従順そのもので、すぐ腹を見せて服従ポーズをとるような犬である。しかしそんな従順な彼女も外に出るや一変し、自分の4,5倍あるような犬にも、つっかかっていく。彼女のおかげで、散歩コースもできるだけ他の犬たちと出会わないコースになり、時間もどんどん早くなり、最終的に散歩時間は5時半過ぎになってしまった。

 ニンジャは愛想が悪い癖に、寂しがりやで、人がいないとキュンキュンとうるさい。人がいなくても寂しがってうるさく鳴かないようにと2匹買った部分もあるのだが、この点はあてがはずれてしまった。

アズミは、頭の良さと気の強さで、いつもニンジャのお気に入りの牛皮製のおもちゃを取り上げてしまう。最初の頃は喧嘩をしていたのだが、ニンジャはアズミがあきるまでじっと待つようになり、彼女があきるとさっと取り返すようになった。こういうところを見ていると、ニンジャは意外に大器晩成なのかもと思えるようになってきた。

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ニンジャは内弁慶、アズミは外弁慶

 

アズミの妊娠

 僕が日本に行っている間にアズミの月経が始まっていた。息子は2匹が交尾してところを目撃したらしい。ブラジル人の母親が獣医に電話したところ、まだ身体が出来上がっていないから、オス犬を離すように言われ隔離していた。アズミを見ると、腰のあたりに肉がつき、さらに乳房が大きくなっていた。人間の僕が見ても妙に色っぽい。息子が見たという交尾で妊娠してしまったのかもしれない。アズミは9か月。人間の年齢に直せば13歳である。ブラジルでは11、12歳の人間の子供が妊娠したということがよくあることだから、9ヶ月の犬が妊娠してもまったく不思議はないのだが・・・。アズミのプリプリした体を見ていると、少々憂鬱になってしまった。

ベッドの上に息子が絵を描いた2枚の紙があった。多分彼が置き忘れていたのだろう。何気なく見ると、男と女がセックスをしている絵だった。動物たちのセックスや、妊娠に今月10才になる息子も刺激されたようだ。「こんな絵を描いて恥ずかしくないのか」と静かに言うと、彼は一瞬顔を赤くして、すぐに捨ててしまった。間違いが起こらない前に性教育をしっかりしなくてはいけなさそうだ。

 日本の実家のアパートで、しばらくひとりで暮らしていただけに、動物達との生活が少しうっとうしく感じる。

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人間の年齢で13歳、こんなに幼い顔をしているのに、もう妊娠とは、トホホホ。

 

ニンジャの変身

ニンジャは「このバカイヌ」といいたくなるほどトボけた犬であった。名前を呼んでも、振り向きもしないし、散歩にでれば主人を置いて他の人にとっととついていく様な、そ

れこそバカイヌであった。ニンジャがバカな行動をするたびに、彼は悲しそうな顔をして肩をすくめた。

 そんなニンジャが少しずつ変わり始めた。なんとなく顔つきが変わったな、と思っていた矢先だった。以前の哲人のような「何事も我関せず」という顔つきから、目や口元、顔のいたる所に愛嬌が出始めているのである。何を考えているのか分からないような以前の顔に比べると、随分かわいい顔になった。1歳を越えて脳が発達しはじめたせいか? あるいは、童貞を捨てたせいか? ・・・・。

 何よりも名前を呼ぶとちゃんと振り向くようになった。以前はアズミを可愛がっても、見向きもしなかったのに、最近は自分も可愛がってくれ、と要求するようになった。どうも人間臭くなって、僕としては逆に何かモノ足らない。今になって、昔の超然としたニンジャが良かったな、と思い始めている。

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父親らしい、しっかりした顔つきになってきた

 

 

出産まじか

お腹はさほどたいしたことではないのだが、アズミの乳が目だって大きくなってきた。

やはり、2匹を引き離す前に妊娠してしまっていたのだ。ニンジャはとぼけた犬なのにまったく手が早い。インターネットで調べると、犬の妊娠期間は60日らしいから、息子が見た日から計算するともうまじかのはずだ。もちろん予定より早く生まれることもあるようであるから、ここ2,3日は目を離せない。ネットで見る限りでは、獣医に検診してもらって出産にそなえるようにと書いてある。そこでかかりつけの獣医に電話すると、もう少し様子を見てみたらということであった。犬に対しても人間に対するのと同様にいたせりつくせりの手当てをする日本とは違い、ブラジルではたかだか犬の妊娠なのだ。この考えは、僕もどちらかというと賛成である。最近の日本はペットに対し気を使い過ぎのような気がする。初産なので少々心配だが、きっと本能で無事出産するだろう、と思う。しかし、もしものときのために、できるだけ外出は控えることにした。

 息子は心配して、しきりにアズミに気を使っている。ニンジャはアズミに近寄るたびにうなられるので、困った顔をしている。本当は分けた方が良いのだろうが、ニンジャが寂しがって鳴いて、近所迷惑になるのでそれもできない。とりあえず、もしものためにネットに書いてある通りに、消毒したハサミとヒモを用意し出産に控えた。僕も犬の出産は初めてで少々心配であるが、まあ何とかなるであろう。

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いつの間にか妊娠し、乳房が張り始めた。それにしてもニンジャは手が早い

 

出産

「生まれたよ」

仕事場に息子が電話をかけてきた。早朝の仕事を終え、事務所に帰り着き重い荷物をおろして一息つこうかと思っていた矢先のことであった。

 息子の声は、いつもと同じ調子で、うわずった様子も弾んだ様子もなかったので、昨日言っていた映画に連れていってくれ、という電話かと思っていた。

「ちゃんと生きている?」

 僕の方が思わず、大声を出してしまった。産まれるのはここ2,3日という気がしていた。ちょうど美容師をしている彼女のお客が獣医で、アパートに来たついでに診てもらったところ、わからないくらい小さいのが1匹いるようだ、との診断をしていた。

「パパイの言っていた通り、生まれたね」

 いつもの低いトーンで息子がボソボソいう。息子は電話になると声のトーンが落ち、ボソボソ声になるのだ。

家に行くと彼女が壁や、床についた血を拭きながらぶつぶつ言っている

「今、生まれたの。逆子でなかなか子犬の頭が出なくて大変だったわ。最後はひっぱりだしたの。もう、こんなことをしたくないわ」

 僕はインターネットで犬のお産について調べて十分知っていたが、彼女はほとんど無知であったので随分慌てたようだ。

 オス犬のニンジャが別の部屋で落ち着きなく吼え、お産をした部屋の中にはイライラした雰囲気が漂っていた。

「ニンジャもいるし落ち着かないから、早くアズミを仕事場に連れて行ってよ」

 無事子供が生まれたのだから、もう少しうれしそうな顔をすればよいのに、彼女はもう見たくないような感じでいう。明らかに苛立っている。ブラジル人だから思ったことは何でもズケズケいうのだ。アズミも子犬のことは忘れたかのように僕にじゃれつき、血が床に落ちる。それを見て彼女がいっそう苛立つ。犬も初産だし、介護する人間も初めてで、訳が分からなくなっているから仕方がない。

 仕事場のアパートに運んで様子を見る。アズミは落着き無く子供の周囲を歩きまわるだけでいっこうに世話をしない。しょうがないのでアズミを僕の膝にのせ、子犬を彼女の乳首のちかくに置いてやると、やっと母乳を吸いだした。しかし、アズミは嫌がって、吸わせないようにする。もしかして、このままずっとアズミは拒否するのかもしれない。慌ててインターネットで調べる。生まれた子犬の世話を拒否する母犬もいるらしい。インターネットを見ている間も、母犬と子犬は僕の膝の上である。このままずっとこの状態でいる訳にもいかない。そんなことを考えていると心配になってきた。アズミは子犬の世話をまったくしないわけではなく、しきりに舐めている。

 用意したダンボール箱にバスタオルをいれ、子犬とアズミを入れてみた。最初、すぐアズミは箱から出てしまったが、子犬がミューミュー鳴きはじめると、中に入って世話をし始めた。しかし、まだ授乳は嫌がる傾向にある。

 心配して息子がやってきた。

「最初みどりのモノが出てね。アズミは落着かなくて、うるさく吼えていたんだ。そうしているうちにママイが帰ってきて・・・」

「えっ、生まれ始めた時には、お前、一人の時だったの! 」

生まれるまでの一部始終を見ていた息子はうわずった調子で詳細に話し始めた。「生」の神秘を垣間見たわけであるから、彼にとって大きな体験である。やはりアズミを買ってよかった。

 箱の中を見ると、アズミが授乳していた。やっとアズミも母の自覚を持ったようだ。良かった!

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最初は世話をしなかったので心配したアズミも次第にかいがいしく世話をするようになった

 

 

サクラ

どうなることかと思った子犬は、アズミが急激に母性本能に目覚め、すくすくと育っている。さすがに1日たつとアズミも随分と落ち着き、子犬をつぶさないように身体の向きを変えたり、子犬の身体をしょっちゅう舐めて気を使っている。

 子犬の名前はメスであることから、ナルトにでてくる女ニンジャから名前をとって「サクラ」に決定。サクラもなんとか母乳を吸うことができるようになり、メキメキと力強くなってきた。まだ目が開いてないにもかかわらず、親の身体に這い上がったり、ダンボールの中をよちよち這い回っている。

 「サクラは賢くなるかな~?」息子がサクラをみながら心配そうに尋ねる。

 「アズミが賢いからなると思うよ」と僕。

 「でも、ニンジャが抜けているから・・・」

 メス親のアズミとオス犬のニンジャを比較すると、性格も頭の良さも随分とことなる。アズミは頭の回転が速く、動きがすばしっこい。主人に忠実な犬で、知らない人に身体を触られたりするのを嫌う。一方ニンジャは、顔もそうだが、おっとりしていて、どこか抜けている。誰にでもついていくような犬で、こいつはバカ犬だと思ったことは1度や2度ではなかった。多分2匹の違いは育ちにあるのではないかと思う。アズミは、うちに来た最初の日から食い意地が張っていて、自分より倍以上大きなニンジャを押しのけて、餌を食べていた。ニンジャはびっくりして、ガツガツ食べるアズミをぼんやりと眺めているだけであった。

 そんなわけで息子はサクラが心配になったのだろう。まだなんともいえないが、顔はニンジャに似てボケ顔である。面白いのは、両耳と尻尾と目の下が黒で外はこげ茶色なのでまるで茶色いパンダである。大きくなるとどうなるのであろう。成長が楽しみである。

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耳、目の周り、しっぽが黒いので、茶色いパンダ犬になる?

 

 

サクラ生後6日目

犬のサクラも今日で6日がたとうとしている。最初は親犬のアズミが育児放棄をするようなそぶりを見せたので随分心配したが、すっかり母性本能に目覚め毎日かいがいしくサクラの世話をしている。

 アズミは我侭で、オス犬を押しのけてでも人に撫でられたいし、オス犬の食べ物も盗ってしまうというような犬であった。しかし、子犬のあつかましさはそれ以上であった。自分が気に入らないとピーピー鳴くし、母親が飯を食っている間もピーピー鳴きっぱなしである。鳴かれるとアズミも心配になり、寝場所のダンボールと餌場との往復をするという具合である。僕も、こんな小さな子犬の世話をするのは初めてだからわからないが、これが子犬の普通の行動なのだろうか? そんなサクラを見ていて、息子のときはどうだったかな、と考えてみたが、夜泣きが勘に触って頭にきたことくらいしか思いだせない。言葉がしゃべれるようになってやっと愛情がわいてきたが、それまでは、猿としか見れなかった。赤ちゃんの頃は可愛いと思ったことはほとんどなかったような気がする。昔から、子供を見るのは好きであったが、相手をするのは全くダメであった。最近やっとほんの少し慣れてきたが、それでもやはり子供は苦手である。子犬のさくらが生まれて今日で8日目。相変わらずアズミはかいがいしく子育てに励んでいる。そのせいかサクラは太ってころころとしてきた。あの食べ物に対して貪欲で、ニンジャを押しのけてでも人の愛情を受けたい、というような自己中心的な犬がここまで世話をするとは思わなかっただけに驚きである。

知人のプードルも初産で5匹も生んだそうであるが、生みっぱなしで子育てを放棄してしまい、いろいろ手をつくしたにもかかわらず、結局子犬はすべて死んでしまい残念がっていた。それを聞いてアズミはえらいな、とつくづく感心してしまった。確かに、アズミは情が深い犬である。見知らぬ人が触ろうとすると吠え掛かるような1本気なところもあるし、子育てに集中すると一生懸命になるのだろう。生まれたのが1匹だったことも幸いしていると思う。

 あんなに食欲がよかったアズミも最近食が落ちてきて、好き嫌いが出てきた。身体の肉も落ちてきた感じがする。子犬が死ぬ確立が高いという1ヶ月を無事過ぎてくれればいいのだが。

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自己中心的なアズミが、これほど母性本能が強い犬とは思わなかった

 

 

 

開いた目 

昨日あたりから、うっすら目が開き始めているような感じがあった。今日、完全に子犬の目が開いた。とはいうもののまだ見えないようで、膜を張ったようなぼんやりした感じである。さっそく息子がしげしげと覗き見る。今まで親犬のアズミが神経質で息子にはあまり触らせなかったのだが、今日はアズミの機嫌もよく、思う存分触ることができ彼も満足げである。

「おしっこしちゃった」と言って顔をしかめた。

 親がおしっこもうんこも舐めてとっていることを教えると、嫌そうな顔をしてアズミを見ている。

 それがどんな動物でも普通なことなんだ、と教えると、やっと納得したような顔をした。

 彼女も来たので、同じことを教えると、案の定彼女も嫌そうな顔をして、アズミが彼女の手を舐めるのを拒否してしまった。まったく情けない。ブラジル人の無知さ加減にはいつもながらにあきれてしまう。

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息子はサクラの目を開くのをずっと待っていたので大喜び

 

 

 

サクラ3週間目

サクラが生まれて3週間がたった。目が開いてからも、霧のような白濁が瞳にあり、眼に障害があるのでは、と心配したが、その白濁も徐々に消え安心した。今では、四肢で歩くようになった。昨日から離乳食として人間用の粉ミルクに子犬用の飼料を潰してやっている。サイトで調べると、子犬用の粉ミルクや専用のエサが日本にはあるが、ここブラジルではあるらしいのだがなかなか見つからない。獣医に尋ねると、お湯で子犬用のエサをふやかしてつぶして、それで十分よ、と言われてしまった。ブラジルでは、ペットは所詮ペットで、日本のようにいたせりつくせりではないのだ。

 サクラは気が強いようで、小さいながらもうなりながら親犬に噛み付いている。これは、もしかしたら普通の行動なのかもしれないが、とてもじゃれているようには見えないので少々驚いてしまった。

しっぽと耳の黒は徐々に薄くなってしまい、がっかりしてしまったが、もうすぐ、死ぬ危険度が高いと言われている1ヶ月も何事もなく過ぎようとしているので、一安心している。

 今まで、たくさんの犬を飼ってきたが、メス犬はアズミが初めてである。それだけに、最初はどう扱っていいのか分からなかった。オス犬に比べて飼い主に対する情が深い感じがする。しかし、アズミに限ったことかもしれないが、オス犬に比べて少しずるいし、そして嫉妬深い。

 アズミは僕によく慣れた。というより、ときどき人間の女性のような目つきで甘えてくる。子犬が産まれても、世話をそっちのけでしつこく甘えてくるので仕方なく膝にせてやる。いつの頃からか、膝に乗せると、僕の両肩に前足をおいて、抱きついてくるようになっていた。子犬が産まれる前は何も問題はなかったのだが、出産後、子犬のうんこを舐めた後に、臭い息を吐きかけるとさすがに閉口してしまう。

嫉妬からヘソをまげて世話をしなくなると困るので、子犬をかまうのも結構気を使う。 人間のかわいい女性に惚れられるのなら大喜びだが、犬に惚れられてもな~、困ってしまう。

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一見、気の弱そうに見えるが、アズミの血を引き気の強さは天下一品

 

 

サクラの成長

犬の成長とは速いもので、僕が旅行に行っていたわずか20日の間に、サクラの体は2まわりも3まわりも大きくなっていた。動きも速く、出かける前はやっと立っていたのに、今はまるでゼンマイで動くおもちゃのようにせかせかと動きまわっている。そんなサクラをずっと世話をしてきた息子は「大きくなったでしょう」と自慢げに言う。

 離乳食として、ドッグフードをすりつぶしたモノを人間用の粉ミルクに混ぜてあげていたが、今は固いドッグフードをカリカリ言わしながら独りで食べている。その一丁前の様子と音がこっけいでついつい笑ってしまう。ドッグフードを嫌いになってしまった母犬のアズミよりもずっと食べている。

 犬のサクラが生まれてほぼ3ヶ月がたとうとしている。とにかくよく食べよく動く。母親ゆずりの気の強さは天下一品で、親犬と喧嘩しては泣かされ生傷が絶えない。ときには、小さなするどい歯で噛み付いて、母親をキャインと言わせることもしばしばである。

 いつも元気一杯のこの犬の動きはカタカタ動くおもちゃ犬のようで、その可愛さから、ついつい母犬アズミのことは忘れてしまい、サクラばかりを可愛がってしまう。とにかく嫉妬深いアズミは、自分も可愛がってくれとアピールし、じゃれついてくるので、仕方なく抱いてやる。産後太ったその体は、肉が付きモチモチしていて気持ちがいいのだが体重が5キロちかくになってしまいかなり重い。

 サクラは、うちで初めて生まれた仔だし、家で飼うつもりだが、3匹連れて散歩となるとさすがに厳しい。9月の最後の予防注射が終わると散歩ができるようになるが、それまでは、肩からかけた鞄に入れて、ときどき外に連れていくしかない。結構目をひくし、体重の増えたアズミの引きが強くなっているため、ついつい億劫になり、最近の散歩はオス親のニンジャだけになってしまっている。

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すっかり小犬らしくなりやんちゃの盛りのサクラ

 

 

サクラ4か月

犬のサクラを3回目の注射に連れていく。すくすくとよくここまで育ったものだ。生まれたばかりの頃は、僕自身、初めての子犬だっただけにちゃんと成長するかどうか心配だった。

 サクラはとにかく騒がしい犬で、母犬の気の強さと父犬のどこか抜けたところを持ち合わせている。父犬の血を多くひいたのか、サクラは誰にでも身体を触らせる。まだ、子犬だから仕方がないのだろうが、誰にでも愛想をふりまくような犬にはなってもらいたくないものである。

 どうも性格的な部分は父犬の血を引き、身体的な部分は母犬の血を引いたようである。この逆だったら良かったのだが。少し残念である。

 

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もう、ほとんど親犬と同じくらいの大きさになってしまった。サクラは去勢しようかどうしようかと悩んでいる。できれば一度はお産さしてあげたいが結局その子供にも産ませてあげたいと思うようになるからきりがない。う・・・

 

ダックス奮闘記完成版Ⅱ

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