市民権を得つつあるブラジルの同性愛者たち

今年で20回目。世界でも最大級のパレードとなった。

今年で20回目。世界でも最大級のパレードとなった。

 メトロの列車の入り口で乗客の乗り降りをぼーっと見ていると、二人の男がやってきて、二言、三言、交わし始めた。別れるのが名残おしそうな様子がこちらにも伝わってくる。ブラジレーロ(ブラジル男性)にしては、ちょっとツルリとオシャレっぽい感じがする。そうしている間に扉が閉まるブザーが鳴り始めた。二人は軽いバードキッス交わし、一人が慌てて列車に乗り込んできた。その様子はまるで恋人同士の別れであった。二人はホモセクシャル(同性愛者)であったのである。一人になった男は、まるっきり普通の男で、柔そうな感じはあるが、ぱっと見ホモセクシャルには見えない。

男同士が抱き合ったりする姿は普通にみられるようになった

男同士が抱き合ったりする姿は普通にみられるようになった

 近年、町を歩いていると、髭面の男同士が手をつないで歩いていたり、女同志が、抱き合っていたりするのをよく目にするようになった。以前は、見かける同性愛者と言えば、トラベスチ(トランスセクシャル=ニューハーフ、女装をし、多くは豊胸、女性ホルモン注射などをして、見た目はゴツイ女性)が数人で歩く姿くらいだった。特に僕の住んでいるセントロ付近にはたくさん見かけられる。

 トラベスチには街娼をして生計を立ている人が多い。一時期、ヨーロッパでは、トランスセクシャルというとブラジル人と言われるほど、出稼ぎに行くトラベスチが多かった。そうして稼いだお金を元手に成功した人もいるようだが、その多くは悲惨な末路を歩んでいるようだ。見た目はもとより女性以上に綺麗なトランスセクシャルもいるが、うちの近くに住む彼らはごつくて長身、そして巨大な豊胸をしているので、すぐにトランスセクシャルと解る。若い頃は身体を売ってありあまるほどの金を稼ぎだす人も多いが、年をとると無理なホルモン注射や整形手術がたたって顔が変形する人もいる。運よく職に着けても、せいぜいホテルの掃除婦くらいで、なかなかまともな職業につけないのが現実のようだ。中には路上生活者になったり、強盗になったりした話も耳にする。そういう悲惨な末路があるにも関わらず整形手術やホルモン注射を行いトランスセクシャルになる男が後をたたない。

しかし、このごろは、無理な整形をしていないゲイやレズが、隠すことも、人目はばかることもなく恋愛行動をするようになった。見た目は普通の男性が、普通の日にスカートをはいたりするのもしばしば見かけるようになった。おそらく、毎年、参加者が増え続け、人気を博しているゲイパレードの影響が多きいと思われる。今年2016年には20回目を迎えた。年々大きくなり、今では世界最大級のゲイパレードと言われている。パレードに集まったゲイやレズは、人目を気にすることもなく、路上でキスや抱擁をするし、中には手当たり次第にキスをしまくる人々もいる。この日は、普段は男然としている人も、女装をして参加する人も多い。女装をしたゲイは一般市民に写真を一緒に撮ること次から次へと請われ、まるでスターの様に扱われる。今までゲイやトラベスチが、スター扱いされたことがあっただろうか? むしろ、日陰者扱いされていた。ゲイパレードが市民の間に浸透するにつれ、ゲイやレズは自然なものとして受け入られ始めたと言える。

同性愛を認めるプラカードを手に行進する人々

同性愛を認めるプラカードを手に行進する人々

 ブラジルには同性愛者間のシビル・ユニオン(法律上の婚姻ではないが、一定の関係にある異性あるいは同性どうしで、一定の手続きの上、法律婚と同様あるいは類似する法的権利を認められているカップルのこと。イタリアでは2016年認められた)や同性婚に関する法律が存在していない。しかし、2011年に最高裁で同性同士の結婚が異性同志の結婚と同等の権利が認められた。国会では同性婚を合法化されていないが、2013年にはブラジル公正評議会(最高裁がトップを務める)が、同性婚のカップルが婚姻届を出しても拒否はしないとする決定がなされた。

 人々に受け入れ始められたゲイやレズではあるが、右翼、ナチシズムに傾倒する人々に徹底的に嫌われ、男二人同士で歩いていると集団で暴行を受けたり、果ては殺害されたりする事件が後をたたない。地方の町で父親と息子が抱き合っているところを見た右翼が、ゲイカップルと間違えて暴行した事件があったし、ゲイ狩りに捕まり、袋叩きにあったり、橋から突き落とされて死亡したりする事件が起きている。 

まだ、男同士や女どうしのキスや抱擁を見るのはなれないが、そのうちきにかからなくなるだろう

まだ、同性同士のキスや抱擁を見るのは慣れないが、そのうち全く気にかからなくなるだろう

ゲイ・レズなどの同性愛は、サンパウロにおいてはほぼ認められていると言って過言ではないと思う。しかし、こうした人々を忌み嫌う集団があるのも事実である。

 ブラジルは多種多様な人種受け入れ、さまざまな文化・宗教が存在する、おおらかで寛容な国であるが、その反面、カソリック教人口は世界一と言われ、特に国会では、強力なカトリック勢力が同性婚に反対しているだけに、同性愛者が法律においても完全に認められるのは難しい。しかし、同性愛者たちが市民権を認められつつあるのは、サンパウロ市に置いては確かなことである。

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