サンパウロのデモ「抑制された反乱」

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 久々に友人と昼飯を共にし、気持ちよくそのままアパートに帰ろうとしたが、なんとなくサン・ジョン大通りの方に向かいたくなった。大通りを下って行くと、打楽器隊の音が耳に飛び込んできた。前方を見ると300人ほどの若者達が打楽器隊のリズム合わせて踊っている。その後ろには「Revolta Reprimida(抑制された反乱)」と書かれた横断幕が掲げられている。もし、デモ行進なら、最近の批判の的である、ジウマ大統領に対する批判や水不足、交通運賃値上げ反対など、現政府・州政府政権への批判のプラカードを持った人がいるはずなのであるが誰一人としていなかった。

 デモか? それとも単なる大学生の行進か? デモにしては、皆、踊っているし、そんな緊迫感もない。中にはビールを飲んでいる者さえいる。今までのデモではビールを飲んでいる人なんか見たことも無い。時期的にもう遅い感じがしないでもないが、大学生たちの新入生歓迎の行進かなと思ったが、掲げられている横断幕からすると、ちょっと違う。せっかく出くわしたのだから、2,3枚写真を撮って帰ろうと思っていた。

 ところが、前に回り込んでみると、黒い胸当て、ひじ当てをつけた完全装備の、ロボコップのようなショッキ(機動隊)が配備しているではないか! しかし、いつもの緊張感、獰猛な闘犬の様な猛々しさが今日のショッキ(機動隊)にはいまいち感じられない。踊る若者達を冷ややかに眺めながら「なんで俺たちがこんな奴らの警備をしなけりゃいけないんだ!」アホらしく感じているのが表情や雰囲気からありありと感じられる。僕も驚いた。今まで、こんな学生の行進にショッキが付いたのを見たことがなかったからだ。この行進には女学生が多いし、男性達にしても見るからにごくごく普通の学生ばかりである。荒れるハードなデモに参加する人々はほとんどが顔を布や仮面で覆い、写真を撮ろうとすると嫌がる。しかし、この行進に集まった人々はむしろ撮られたがっている人もいる。警備にやってきたショッキも拍子抜けしたようだ。上からの命令で来たかぎりは途中で警備を止めるわけにはいかないし・・・、そんな感じであった。

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イピランガ大通りに入った時には、参加者が倍以上に膨らんでいた

政府のデモに対するピリピリぶりがうかがえる。表向きは、商店や銀行などの破壊行為を抑えるための警備だが、デモをする人々への威圧だろう。小さなデモが大きなデモに発展する可能性もあるから、どんな小さなデモでも抑え込もうとしているのだ。まさに「抑制された反乱」だ。イピランガ大通りに入る頃には参加者が2倍ほどにも膨れ上がっていた。

 

 数人の女子学生は上半身にボディペインティングをしただけのトップレスもいた。ブラジルでは公共の場でトップレスは禁止されていたように思うが、警察が逮捕しない所を見るとボディペインティングを施していたら許されるのかもしれない? おそらくそれを知っていて女性たちはこのいでたちであえて参加しているのだと思う。警察、ショッキの大げさなほど厳重な警備の中で若者たちは、まるで彼らをからかい、あざ笑うように踊り、抱き合い、ディープキスを交わしたりしながらゆっくりと行進をつづける。参加者はシュプレヒコールを上げる訳でもなく、モノを投げたり壊したりするわけでもないので警察たちも何もできない。周囲を固めて一緒に歩いて行くだけである。若者達たちがビールを片手に気持ちよさげに踊り、笑顔を見せれば見せるほど、ゴム弾用ショットガンや盾を持った警官たちが不恰好に見える。本当は数枚撮ってさっさと帰るつもりであったが、学生と警官の対比を撮りたくてついつい粘ってしまった。

7時半を越え、あたりがすっかり暗くなり、ISOをあげてもシャッタースピードが遅くてうまく撮れなくなった。行進もついには進むのを警察たちに阻まれ止まってしまった。抑制された反乱・・・この言葉ともに若者達の笑顔と対照的な、ショッキの苦々しい顔が頭の隅にずっと残存し消えなかった

今、書きながら考えてみると、このデモは、政治政党と全く関係ない若者達のうちなる叫びから自然発生的に発生したデモだったのではなかろうか。この頃のデモは、最初のうちは穏やかに行進が進むが、最後はいつもケブラケブラ(破壊行為)になり、警官隊や機動隊がガス弾やゴム弾をうちまくり、数人の逮捕者がでて終わるパターンが続いている。主催者が、「参加者の制御がどうしようもできなくなって・・・」というコメントを残している。政府側の人間がデモに普通の人間を装い、参加者を煽っているという噂も聞く。さらにデモ行進が問題なく進んでいても警察側がガス弾を撃ちはじめ参加者を煽っているようなこともあった。実際、僕も体験した。路上で一部始終を見ていたおじさんが「デモ隊は何もしないのに、警官が撃ち始めた!」と大声で叫び批難していた。もちろんそんなことはテレビや新聞では流れない。最近では、地上でのテレビ取材は、警官隊がゴム弾ガス弾を撃ちまくって危険なので、ほとんど行われていない。ヘリコプターで行われているが、空からでは、実態はあまり把握できないのではないだろうか。

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これみよがしに? 機動隊の前でキス

最近サンパウロでは、デモだけでなく日常生活でさえ個人のプライバシーや自由に対する抑圧をしばしば感じる。SNSの書き込みは常に監視され、犯罪防止のために町中にビデオカメラが設置されているで、何かあるとその録画ですぐ判明される。ちょっと大げさにいうなら、サンパウロでの生活は、個人のプライベートが自分の部屋しかないような感じさえある。人々を掌握し管理しようとしているのを肌で感じずにはいられない。自由で大らかなはずのブラジルがどんどん中国化している。

今年のカーニバルはその最たるもので、1時を過ぎても帰ろうとしないカーニバル客に対し、警官隊がガス弾を打ち込み、見えない所では女性でさえ暴力的に排除されたと聞く。ブラジル人の酔っ払いの煩さ、しつこさは尋常ではない。それは僕も知っているが、警察の振るう暴力は度を越していた。暴力やガス弾を使用する必要が果たしてあったのだろうか? テレビでは、帰らない人たちが一方的に悪者になり、警察の暴力は正当化されていた。国最大のお祭りカーニバルでさえ、力で押さえつけようとしている。

今回のこのデモは、無抵抗の抵抗、「抑制された反乱」だった。マスコミは全く注視していなかったが、このデモの成功は重要な意味があると思う。

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